第二十八回 両雄の死

武田晴信（市川亀治郎）勢は信濃に出陣し、村上（永島敏行）勢と激突する。先陣を担うのは、甘利（竜雷太）と板垣信方（千葉真一）。山本勘介（内野聖陽）は板垣の命で本陣の晴信のもとにいる。
甘利は村上に寝返ったと見せて独り村上の陣に赴き、村上の首をとろうとする。
板垣は伝兵衛を晴信の影武者にして、なんとしても自分でこの戦の決着をつけようとする。
二人とも自分が命をかけてこの戦を早く終わらそうとしているのだ。そうでなくては犠牲が多く出るし、勝つのは難しいともわかっているのだ。晴信と武田をこうして守りたいのだ。
甘利の臓腑をえぐる真実の思い。板垣の凄絶な永遠の忠誠。晴信の純粋で稀有の才能がある故に一時暗黒を彷徨う魂の哀しさ。この三人の男への挽歌ともいうべき章。魅了された。
竜雷太の甘利の内に内に深く降りて行く心の重さ、板垣の千葉真一の怒涛のごとく高まりながら実は静謐な魂の覚悟、そして亀治郎の歌舞伎の様式を目玉に集中して表した迫力、それぞれの演技にひきこまれた。亀治郎のラストの、「い・た・が・きーっ！」と叫んだ悲痛な声はしばらく耳に生きていそうだ。
毎回思うのだが、めりはりのきいたシンプルな演出が凄くいい。また音楽が素晴らしい。

惜しむらくは永島敏行の村上は現代風過ぎた。信条や思想にとらわれず人間そのものが無骨で澄み切っている人間像を示して欲しかった。

千葉真一は、これで俳優を引退するそうだが、正統派時代劇をこんなに堂々と受け継いだ人がやめるなんて！　絶対続けていくべきです。やめないでください！