第二十一回 消えた姫

由布姫と晴信(市川亀治郎)の間に入った亀裂は、由布姫が三条夫人に甘酒を振舞おうとし、それに毒が入っていないかを三条夫人(池脇千鶴)の侍女(浅田みよ子)が疑ったことから決定的になり、姫はついに諏訪に遠ざけられた。
が姫は諏訪に着くとすぐに姿を消してしまう。
いなくなった由布姫(柴本幸)を、雪の山中で懸命に捜す勘介(内野聖陽)。やがて明かりが灯っている小さな御堂を見つける。そこに疲労で憔悴した由布姫が独りでいた。
「甲斐に帰りたかった。お館さまのみしるし(首)をとりに行きたかった」という由布姫。これこそ由布姫の命をかけた愛の告白の言葉である。そしてそれを聞く、勘介の眼に漲る由布姫への愛。・・・極上のラブストーリー。普段恋愛ものは全くと言っていいほど観ない私だが、由布姫の清冽な涙と勘介の青い色の沈んだ湖の底を思わせる深い眼差しに、ただただ魅せられるばかりだった。

■[感想]風林火山 第二十一回「消えた姫」の山本勘介と由布
由布姫が、晴信に諏訪に遠ざけられ、行き先に着いたその夜、侍女のマキを身代わりにして失踪してしまう。

勘介は雪の山中を必死に捜す。疲労と寒さで横倒しに倒れる勘介。意識が戻ったその時、かすかに聴こえてきた由布姫が吹く笛の音。これは勘介の想いが呼び起こした笛であろうと思うが、この笛の音が勘介の心(魂)に届いた瞬間、勘介は醒めるのである。

「姫・・・どんなにお寂しいだろう・・・」

ここは泣けてしまいますね。勘介は本当の由布をはじめて見たのだ。由布姫は、父の敵、国を奪った晴信を憎みつつ、その憎しみと敵を討ちたい、という思いでは生きられなかったのだ。生あるものがすべからくその根源に持つ想い、『私をみて・・・内なる私を見つけて・・・』。この叫びを由布姫はずうっと発していたのではなかったか。

それをはじめて、勘介は感じたのだ。誰にも見つけてもらえなかった姫の孤独の深さを。

そして、「姫様は自分がお守りします」と自分に誓いまた姫を捜して彷徨う。

山の奥深い御堂でやはり疲労と寒さで動けなくなっている由布姫に会う。

この御堂で、勘介は、由布姫が、晴信を深く慕っており、それゆえに自身が引き千切れそうになるほど苦しんでいることを知る。そう、この由布の姿、想いこそ、”由布姫”だったのだ。

現代劇だったら、ここでの由布のセリフは、シンプルに「私をみて! 私を見つけて!」であったろう。

この場面の姫の目から迸る清冽な涙と、はじめて、由布姫の魂に向いた、勘介の観るものの胸をえぐる激情を抑えた篤い眼差しの美しいこと。切ないこと。



勘介は、姫を救う。それは、憎しみだとばかり思っていた感情の底の姫の真実の姿、想いを、しっかり受け止めた、ということで成った。勘介はこの時、姫の永遠の騎士になったのだ。真実の騎士というものは、周りの世事に揺るぐことなくその人の真実を見つめ続ける。永遠の親友と言ってもいいだろうと思う。

この日を境に、姫は晴信への愛をまっすぐに貫くことができるのだ。こんな幸せなことはない。

この回のラストの、晴信の手と由布姫の手が触れ合う繊細な演出が、その由布の愛と幸せを顕していて素敵だった。

晴信は全てをわかっていたのだろうか。



この「消えた姫」の回で、勘介が内野聖陽であり、由布姫が柴本幸であったことを、私は最高だと思った。

純粋さを演じることは易しい。だが純粋であるからこそ世事を超える強さを持つ存在になることは、そう出来ることではない。この二人は、世事を寄せ付けない魂を本来持っている人なのだろうとあらためて感じた。それに酔わない役者としての確かさも。