第十九回 呪いの笛

おどろおどろとしたタイトルだが、むしろ「切ない笛の物語」であった。


由布姫(柴本幸)が晴信(市川亀治郎)の側室になることに決まってから、三条夫人(池脇千鶴)が由布姫を訪ね、自分が晴信に嫁ぐ時に京から持ってきた笛を渡す。

この場面の池脇千鶴は凛として美しく立派だった。建前を通しに来たようには描かれていず、人間味をにじませて、彼女は由布姫にこのように言い深々と頭を下げる。

「お領様を悪逆非道のように言う者がいるがそうではない。そなたを側室にしようとするのも諏訪を攻めたのも、私欲のためではない。お領様をどうぞよろしくお願い致します」

この言葉を聞く乳母(?)、浅田美代子の表情も深いものがあった。

特に、外に出た時、そこで控えていた山本勘介(内野聖陽)に向けた浅田美代子の表情は哀しく烈しく、『自分が命がけで慈しみ守っている池脇千鶴を、よくもこのような苦しい立場に追い込み、耐え難きを耐えなければならない状況に追い詰めてくれたな、おのれ! 悲しや、憎や!』という心中を表わしていて観ていて同情の思いがわいた。

このあと、勘介は由布姫のところに駆けつけ、座敷に上がり、笛をしげしげと見たり振ったりする。由布姫を害するしかけがないかを調べたのだ。


その勘介の背中に由布姫は「そなたは恥ずかしくないのですか」と怒りの声を投げつける。
ここの勘介のとった行動は、三条夫人の側の強い想いを察知はしてもそれに呼応したり理解を寄せる気持ちはなく、ひたすら由布姫(ひいては晴信か?)の側にのみ寄っていることに、生意気な書き方をすると(いつも生意気ですが)私は演出の確かさをここでも感じた。
勘介にここで、三条夫人への理解の念、そして自分を自責する思いを持たせると、それなりに勘介像が深まるように見えるがそれでは甘くなる、と想うからだ。
由布姫に、三条を疑うことを「恥ずかしくないのですか」と謗られても、勘介にはどうでもよかっただろう。


この場面の前に、勘介は三条夫人を由布姫に会わせまいとして前に立ちはだかるのだが、この時、三条夫人に「そなたは諏訪の者か武田の者かと静かに問い詰められる。勘介はたじたじとなりながら、「武田です」と答えるのだが、このドラマが面白いものになっているのは、女性の描き方がしっかりしているのも大きな要因のひとつだと思った。女性たちはいずれも自立して自我を持ち、それぞれの洞察性を培った存在になっている。


・・・というわけで、今回は、晴信と由布姫が結ばれ、史上稀に見るラブストーリーの幕開けとなった章であった。